スマホの普及やネット環境の発達により、消費者の行動が多様化してきました。気になる商品があれば、安く売っている店舗やレビューをいろいろなサイトで調べ、最も良さそうなところで買うのが当たり前になっています。
つまり、流通経路が増えているわけですね。これに対応するために、すべての流通経路を一括管理する販売戦略=オムニチャネルが生まれました。
本記事ではオムニチャネルについて、概要や仕組み、メリット、事例などを解説していきます。
オムニチャネルとは?
冒頭で述べたように、オムニチャネルとは「すべての流通経路を一括管理する販売戦略」のこと。
・オムニ…すべての
・チャネル…集客の経路
経路はSNS、ネット広告、TVCM、アプリ、ECサイト、実店舗などがありますね。
従来は、それぞれのチャネルでとられる施策が独立しており、連携されていませんでした。このせいで、実店舗とECで顧客情報や在庫情報、キャンペーン等の共有ができず、顧客・従業員ともに不便があったのです。
そこで考え出されたのがオムニチャネル。すべてのチャネルで情報を共有することにより、例えば以下のようなことができるようになります。
・実店舗を訪れ、ある服が気に入ったものの、ピッタリのサイズがなかった顧客がいた。担当者はその顧客のために社用端末からECへアクセスし、在庫が残っているか確認。見つかったので、店舗で決済を済ませ、ECから自宅へ商品が届くよう手配した。
・実店舗とECのポイントをアプリで一元化し、どこで買い物をしてもポイントの貯蓄や使用ができるようにした。
こうした取り組みにより、顧客にとっても従業員にとっても利便性がアップするわけです。
マルチチャネルとは?
オムニチャネルと混同されやすいのがマルチチャネル。
複数のチャネルを用意するというのは両者共通していますが、マルチチャネルにはそれぞれの連携性がありません。各チャネルの機能が独立している状態です。
オムニチャネルの一歩手前の段階ともいえますね。前述した従来の方式がこれにあたり、マルチチャネルでは実店舗とECで情報共有ができない欠点がありました。
・マルチ…複数の
・オムニ…すべての
接頭語を見ても、後者の方が発展しているのがわかりますね。
オムニチャネルのメリット
次に、オムニチャネルのメリットを見ていきましょう。
顧客満足度アップ
1つめは顧客満足度アップです。
前掲の例のように「せっかく店舗へ行ったのに合うサイズがなかった……」なんてことを防げるため、顧客は気分良く買い物できます。
また、実店舗でもECでも、顧客の好みの買い方ができるという利便性により、リピーター化も図ることができますね。
機会損失の防止
2つめは機会損失の防止です。あらゆる経路に網を張り、それぞれを連携させることで、購買のタイミングを逃しにくくなります。
1つめのメリットとも関連しますが、今までだと店舗に在庫がなければ顧客は何も買わず退店していました。しかしオムニチャネルを整備すれば、別の店舗やECから商品を取り寄せられるのです。となれば、顧客が断る理由はなくなりますね。
顧客一人一人に合わせたマーケティングができる
3つめは、顧客一人一人に合わせたマーケティングができること。
オムニチャネルでは各チャネルから届く顧客情報を中央のシステムで一元管理します。これにより、顧客一人一人の誕生日や趣味嗜好、行動パターンなどを把握でき、各々に対して最適な施策を打てるようになるのです。
成果の出る確率はアップしますし、マーケティングコストの削減にもつながるでしょう。
オムニチャネルのデメリット
このように何かと恩恵のあるオムニチャネルですが、以下のようなデメリットも存在します。
顧客:会員登録の手間と不安
顧客にとっては、ECサイトや店舗会員への登録が必要になります。この手間と、個人情報を渡す点への不安はデメリットになり得るでしょう。
・登録時の入力項目はできるだけ少なくする
・入力フォームはシンプルにする(名字と名前を別々のボックスに入力させず、1つにまとめるなど)
・個人情報取扱いの規約を説明する
などの対策が必要です。顧客が手軽に・安心して登録できる仕組みを整えてください。
企業:店舗のショールーム化
企業にとっては、店舗のショールーム化につながる恐れがあります。
顧客は店舗に足を運ぶものの、気になった商品に関しては帰宅後に情報収集し、ECで買ってしまうのです。これを「ショールーミング」といい、オムニチャネルに取り組む企業の課題としてよく挙がります。
せっかくチャネルを広げ、連携させたのに、結局はECでしか売れない……。これでは本末転倒です。したがって、ただシステムを取り入れるだけでなく、各チャネルの役割や連携性、ユーザーとの関係構築といった細かな点まで検討しなければなりません。
企業:社内の意識改革
企業にとっては、社内の意識改革の手間もデメリットになります。
オムニチャネルでは、会社全体で売上を作るという考え方が重要です。スタッフ1人の売上もたしかに大切ですが、肝心なのは社全体にどれだけ貢献したか。他店舗やECを不用意にライバル視してはいけないのです。
舵取りをする担当者にとっては、このための教育に迫られるわけですが、これが案外難しいとされます。場合によっては評価制度も改めなければなりません。
端末の操作方法よりも、こちらの教育の方が課題になるでしょう。
オムニチャネルの実情
オムニチャネルは近年の小売業界でよく聞く用語ではありますが、実際のところ、取り組みに苦戦している企業が大半です。
セブン&アイホールディングスは2013年に、オムニチャネル構築へ1,000億円の投資をすると発表。18年の売上高1兆円という目標を掲げたものの上手くいかず、16年10月には戦略の見直しを早々に決定しました。結局、18年の売上高は1,87億円と目標には遠く及ばず、同社のオムニチャネルは失敗例としてよく引き合いに出されます。
ユニクロのように成功している企業もありますが、実情はセブンのようなところがほとんどです。実店舗とEC、そしてシステムをシームレスにつなぐのは、想像以上に難しいのです。
まずはできることから小さくはじめよう
オムニチャネル自体は便利ですし、これからの時代の販売形態として必要な考え方です。
とはいえ、いきなり大きなリソースを注ぎ込むのはリスクが大きいですよね。そこでまずは、小さなことからはじめるのがおすすめです。
・店舗にない商品を他店やECから取り寄せできるようにする
・ECサイト上で試着や試し使いができる店舗情報を提供する
・商品POPやチラシに掲載されたQRコードを読み取ると、商品の使い方やレシピなどを掲載したサイトへ飛べるようにする
・ポイントやキャンペーンを実店舗でもECでも共通化させる
などでも十分にオムニチャネルと呼べます。
オムニチャネルのキモは、商品を買ってもらうことではありません。商品をストレスなく買えるという体験を通じたファン化にあります。上記のような施策による小さな実績を積み重ね、環境を少しずつ整えていくのが良いでしょう。
まとめ
今回はオムニチャネルについて、概要やメリット・デメリット、現状などを解説してきました。
最後に意識しておきたいのは、すべてのチャネルを整備する必要はないということ。自社のリソースと顧客の行動様式を鑑み、今できることからチャレンジしていくのが、失敗を防ぐのに有効です。
オムニチャネルの知見を深める上で、本記事が参考になれば幸いです。